論文ハイライト / Highlight

Emerin deficiency does not exacerbate cardiomyopathy in a murine model of Emery-Dreifuss muscular dystrophy caused by an LMNA gene mutation

Eiji Wada, Kohei Matsumoto, Nao Susumu, Megumi Kato, Yukiko K Hayashi

J Physiol Sci. 2023 Nov 8;73(1):27. doi: 10.1186/s12576-023-00886-0.

エメリー・ドレイフス型筋ジストロフィー(EDMD)は核膜タンパク質をコードする遺伝子の異常によって起こり、骨格筋と心筋が障害されます。これまでの研究で、核内膜タンパク質エメリンを欠損したマウスは横紋筋障害を引き起こさず、患者さんから見出されたA型ラミン変異を導入したH222Pマウスは拡張型心筋症が起こるものの、骨格筋障害は軽微であることが分かっていました。そこで我々は、エメリン欠損とA型ラミン変異をもつ2重変異マウス(EH)を作製し、EHマウスが患者病態と類似して心筋症よりも早期に骨格筋障害が起こることを報告しました。今回の研究では、EHマウスの心筋障害がH222Pマウスよりも重篤化すると仮説をたて、EDMDモデルマウスの心筋の機能と障害度合いを経時的に検討しました。その結果、EHマウスの心筋障害はH222Pマウスと同程度であり、寿命も変わらないことが明らかとなりました。A型ラミン変異にエメリン欠損が加わることで骨格筋障害は悪化するものの、心筋症の進行には影響をもたらさないことが分かり、エメリンの機能は骨格筋と心筋で異なることが示唆されました。これらの結果をもとに、核膜タンパク質の異常が組織特異的に障害をきたすメカニズムを解明していきます。

α-1,6-Fucosyltransferase Is Essential for Myogenesis in Zebrafish

Nozomi Hayashiji*, Genri Kawahara*, Xing Xu, Tomohiko Fukuda, Aurelien Kerever, Jianguo Gu, Yukiko K. Hayashi#, Eri Arikawa-Hirasawa#

*: equally contributed、#:責任著者

Cells 2023, 12(1), 144)

タンパク質は糖鎖修飾を受けることにより、多様な機能を獲得し様々な生命活動に深く関与します。糖鎖修飾については未解明なことも多く、糖鎖研究は新たな疾患の病態解明や、治療法の開発への可能性を秘めており大変注目されています。 本研究では、ゼブラフィッシュと呼ばれる小型魚類を用いて、糖転移酵素のひとつであるα(1,6)-Fucosyltransferase:Fut8が筋発生に重要な因子であることを明らかにし、株化骨格筋細胞を用いて筋分化においてもFut8が重要な分子であることを示しました。本研究成果は、骨格筋の形成にタンパク質の糖鎖修飾が重要な役割を担っているという新たな知見を得ただけでなく、骨格筋関連疾患の治療開発に新しい展開をもたらすことが期待されます。

Metabolic dysregulation and decreased capillarization in skeletal muscles of male adolescent offspring rats exposed to gestational intermittent hypoxia.

Wirongrong Wongkitikamjorn, Eiji Wada, Jun Hosomichi, Hideyuki Maeda, Sirichom Satrawaha, Haixin Hong, Ken-ichi Yoshida, Takashi Ono and Yukiko K. Hayashi

Front Physiol. 2023 Jan 12 doi.org/10.3389/fphys.2023.1067683

妊娠時には閉塞性睡眠時無呼吸症が好発し、母体の低酸素状態が胎児に与える影響が懸念されています。このように胎児期から出生後の発達期における様々な環境への曝露が、成長後の健康や病気の発症リスクに影響を及ぼすというDevelopmental Origins of Health and Disease (DOHaD)説は、生物学全体の新たな研究課題として着目されています。本研究では、妊娠時の間欠的低酸素曝露が仔ラットの成長期に有酸素運動能の低下と骨格筋での糖・脂質代謝異常、血管密度の減少を引き起こすことを明らかにしました。胎児期に低酸素曝露を経験した仔ラットは大人になってから肥満や糖尿病を発症するリスクが高いことが報告されており、本研究結果が示す成長期の骨格筋での変化が生活習慣病発症の「鍵」となる可能性を示唆しました。

Gestational Intermittent Hypoxia Induces Mitochondrial Impairment in the Geniohyoid Muscle of Offspring Rats.

Wirongrong Wongkitikamjorn, Jun Hosomichi, Eiji Wada, Hideyuki Maeda, Sirichom Satrawaha, Haixin Hong, Yukiko K. Hayashi, Ken-ichi Yoshida, Takashi Ono

Cureus. 2022 May 17;14(5):e25088. doi: 10.7759/cureus.25088. eCollection 2022 May.

妊娠時には閉塞性睡眠時無呼吸が好発することが報告されており、母体の低酸素状態が胎児に与える影響が懸念されています。我々はChulalongkorn大学(タイ王国)と東京医科歯科大学のグループと共同研究を行い、妊娠ラットを間欠的低酸素(IH)曝露下で飼育し、通常酸素下で成長期(生後5週齢)まで飼育した仔ラットの骨格筋を解析しました。その結果、舌骨や下顎骨の動きに関与するオトガイ舌骨筋ではType 2A線維が小径化しており、ミトコンドリア関連タンパク質の減少を認めました。一方で、咀嚼筋である咬筋にはこのような変化は認められませんでした。詳細なメカニズムは未だ明らかとなっていませんが、妊娠時低酸素曝露に対する感受性は骨格筋部位によって異なることが明らかとなりました。

Homozygous nonsense variant in LRIF1 associated with facioscapulohumeral muscular dystrophy.

Hamanaka K, Šikrová D, Mitsuhashi S, Masuda H, Sekiguchi Y, Sugiyama A, Shibuya K, Lemmers RJLF, Goossens R, Ogawa M, Nagao K, Obuse C, Noguchi S, Hayashi YK, Kuwabara S, Balog J, Nishino I, van der Maarel SM 

Neurology. 2020 Jun;94:e2441e2447. DOI:10.1212/WNL.0000000000009617.

 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーは、Ch.4q35領域にあるD4Z4リピート配列の短縮またはエピゲノム変化によって、骨格筋で通常発現しないDUX4が発現することが原因となる疾患です。今回我々は、FSHD患者から新たにLRIF1変異を見出しました。正常ではD4Z4リピートに結合しているLRIF1が遺伝子変異により欠損し、骨格筋でのDUX4を発現させていることから、LRIF1が新規FSHDの原因遺伝子であることを明らかにしました。

*この論文はNeurology ‘Editorial'でも紹介されています(DOI:10.1212/WNL.0000000000009580)


Promoting plasma membrane repair via AMPK comple activation improves muscle phenotypes of dysferlinopathy. 

Ono H, Suzuki N, Kanno S, Kawahara G, Izumi R, Takahashi T, Kitajima Y, Osana S, Akiyama T, Ikeda K, Shijo T, Mitsuzawa S, Warita H, Nagatomi R, Araki N, Yasui A, Hayashi YK, Miyake K, Aoki M

Mol Ther. 2020 Apr ;28(4):1133–1153. DOI: 10.1016/j.ymthe.2020.02.006.

 筋ジストロフィーの原因遺伝子産物dysferlinは細胞膜の修復に重要な分子です。我々はdysferlinAMPKγ1と結合し、Ca2+存在下で膜損傷部位へのAMPK複合体の集積に関与すること、AMPKαのリン酸化が膜修復に必須であること、AMPK活性化分子メトフォルミンがゼブラフィッシュ並びにマウスdysferlin欠損症の膜修復を改善することを明らかにし、筋ジストロフィーの新たな治療候補を見出しました。


Antagonists for serotonin receptors ameliorate rhabdomyolysis induced by 25D-NBOMe, a psychoactive designer drug.

Kawahara G, Nakayashiki MS, Maeda H, Kikura-Hanajiri R, Yoshida K, Hayashi YK

Forensic Toxicology. 2020 Jan;38:122–128. DOI: 10.1007/s11419-019-00495-w.

 危険ドラッグの成分である25D-NBOMeは服用後セロトニン症候群、横紋筋融解症などを引き起こすことが知られています。この25D-NBOMeをゼブラフィッシュの稚魚に投与した結果、セロトニン受容体およびリアノジン受容体の発現亢進を伴って、筋組織構造異常を引き起こすことが明らかになりました。その症状はセロトニン受容体阻害剤の投与によって緩和されました。今回の論文では、危険ドラッグの成分である25D-NBOMeで引き起こされる横紋筋融解症の動物モデルを確立し、その緩和薬剤としてセロトニン受容体阻害剤が有効である可能性が示されました。


Deficiency of emerin contributes differently to the pathogenesis of skeletal and cardiac muscles in LmnaH222P/H222Pmutant mice.

Wada E, Kato M, Yamashita K, Kokuba H, Liang WC, Bonne G, Hayashi YK

Plos One. 2019 Aug;14(8):e0221512. DOI: 10.1371/journal.pone.0221512.

 核の構造や機能を担う核膜タンパク質は様々な種類が知られていますが、その中でもエメリンやA型ラミンの変異は核膜病の原因として知られ、心筋と骨格筋に障害を呈します。モデルマウスを用いた先行研究では、エメリン欠損マウスはほとんど症状がなく、患者さんから見出されたラミン変異p.His222Proを導入したH222Pマウスは心筋障害を呈するものの骨格筋病態は非常に軽微でした。本研究では、エメリン欠損マウスとH222Pマウスを掛け合わせて二重変異マウス(EH)を作出し、骨格筋と心筋に対する影響を検討しました。その結果、EHマウスは心筋障害を起こしていない12週齢で、すでに運動機能の低下と骨格筋の変性が認められました。患者さんでも同様に心筋よりも骨格筋のほうが先に障害が認められることと一致します。EHマウスは核膜病、とりわけ骨格筋病態を研究する上で大変有用なモデルマウスであることが明らかとなりました。また、エメリンの機能が心筋と骨格筋で異なることが示唆されました。引き続き、核膜病モデルマウスを用いて病態解明と治療法の開発を進めていきます。



Renal involvement in the pathogenesis of mineral and bone disorder in dystrophin-deficient mdx mouse.

Wada E, Hamano T, Matsui I, Yoshida M, Hayashi YK, Matsuda R

J Physiol Sci. 2019 Jul;69(4):661-671. DOI: 10.1007/s12576-019-00683-8.

 デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)のモデルマウス(mdx)を用いて、腎機能低下と骨代謝へ与える影響を明らかにしました。骨密度低下や腎機能低下はDMD患者さんの合併症としても知られていますが、今回の研究でmdxマウスの腎機能低下は腎臓の構造的問題ではなく(ジストロフィンタンパク質の欠損や関連タンパク質の局在異常等は関与していない)、慢性的な筋変性が起因することが示唆されました。また食餌から摂取するリンの量を増加させて腎臓に負荷をかけると、mdxマウスの骨密度低下がさらに悪化することも分かりました。