▶Intestinal butyric acid-mediated disruption of gut hormone secretion and lipid metabolism in vasopressin receptor-deficient mice
Kazuki Harada, Eiji Wada, Yuri Osuga, Kie Shimizu, Reiko Uenoyama, Masami Yokota Hirai, Fumihiko Maekawa, Masao Miyazaki, Yukiko K. Hayashi, Kazuaki Nakamura, Takashi Tsuboi
Molecular Metabolism. 2024 Dec 9:102072. doi: 10.1016/j.molmet.2024.102072.
本研究は東京大学や国立成育医療研究センターのグループと共同研究を行い、血圧や体内の水分量の調節、情動行動や社会的行動などに関わる脳下垂体から分泌されるバソプレシンを受容するバソプレシン受容体遺伝子を欠損したマウスに見られる代謝疾患の発症機構の一端を解明しました。バソプレシン受容体遺伝子欠損マウスの骨格筋や脂肪組織に脂質が異常に蓄積し、消化管ホルモンであるグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の分泌能が低下することを明らかにしました。このGLP-1の分泌能の低下は、腸内に生息する細菌類(腸内マイクロバイオータ)が作り出す代謝物である酪酸の腸内濃度が異常に増加したことによるものでした。これらの成果は、腸内マイクロバイオータとその代謝物に着目した代謝疾患の新たな治療戦略に貢献すると期待されます。
▶Optimized simple culture protocol for inducing mature myotubes from MYOD1-overexpressed human iPS cells
Eiji Wada, Nao Susumu, Yuya Okuzaki, Akitsu Hotta, Hidetoshi Sakurai, Yukiko K. Hayashi
Scientific Reports. 2024 Nov 20;14(1):28783. doi: 10.1038/s41598-024-79745-w
本研究は、京都大学iPS研究所(CiRA)と共同研究を行い、骨格筋の分化を制御する転写遺伝子MYOD1を強制発現して骨格筋細胞を誘導する培養法において、培地の種類などを最適化し、従来の方法よりも格段に筋成熟を促進させる高効率で再現性の高いプロトコルを確立しました。この新規培養方法を用いて、健常人由来iPS細胞、核ラミナを構成するA型ラミンに変異を持つラミノパチー患者由来iPS細胞、CRISPR-Cas9を用いて遺伝子修復したiPS細胞から分化させた筋細胞を解析したところ、患者由来細胞でラミノパチーの特徴である筋核の形態異常や核膜タンパク質の局在異常が再現されました。この新規培養方法は、他の筋疾患患者由来iPS細胞を用いた病態解析研究にも応用できると期待されています。
▶Characteristics of nuclear architectural abnormalities of myotubes differentiated from LmnaH222P/H222P skeletal muscle cells
Eiji Wada, Nao Susumu, Motoshi Kaya, Yukiko K Hayashi
In Vitro Cell Dev Biol Anim. 2024 May 9. doi: 10.1007/s11626-024-00915-1.
ラミノパチーはA型ラミン遺伝子(LMNA)の変異で発症するが、その変異の部位によって筋ジストロフィー、拡張型心筋症、脂肪萎縮症、早老症など、きわめて多彩な疾患を引き起こす。核の形態異常はこれら疾患に共通する特徴であり、筋ジストロフィー骨格筋では核の大小不同、一部突出した核、鎖状に並んだ核などが認められるが、病態との関連は良く分かっていない。本研究では、エメリー・ドレイフス型筋ジストロフィーの原因遺伝子のひとつであるLMNA-H222P変異を持つH222Pマウスの骨格筋幹細胞を単離・培養し、筋分化過程での核の形態変化を超解像度顕微鏡とタイムラプス蛍光顕微鏡を用いて詳細に解析した。その結果、増殖中の筋細胞では核の形態異常は認められず、突起部位(Bleb)を持つ核や変形した核が筋分化後の過程で認められることを明らかにした。さらに、筋管形成後の解析では、正常な形の核は48時間程度の培養では正常の形態を維持しており、筋管の成熟に伴って異常になることはなかった。一方、異常な形態の筋核は分化開始後に不均等な細胞分裂で出現し、細胞融合することで異常な筋核として残在し、その形態は培養を続けてもほとんど変化しないことを明らかにした。また核の変形部位では、核膜関連タンパク質であるlamin A/Cやemerinの局在は保たれているもののlamin B1, NUP153, nesprin 1は消失していた。興味深いことに、培養条件下では核形態に異常があっても、DNAダメージや細胞死はほとんど起こらず筋分化も正常であったことから、筋ジストロフィー病態メカニズムの探求にはより生体に近い条件が必須であることが示唆された。
▶Emerin deficiency does not exacerbate cardiomyopathy in a murine model of Emery-Dreifuss muscular dystrophy caused by an LMNA gene mutation
Eiji Wada, Kohei Matsumoto, Nao Susumu, Megumi Kato, Yukiko K Hayashi
J Physiol Sci. 2023 Nov 8;73(1):27. doi: 10.1186/s12576-023-00886-0.
エメリー・ドレイフス型筋ジストロフィー(EDMD)は核膜タンパク質をコードする遺伝子の異常によって起こり、骨格筋と心筋が障害されます。これまでの研究で、核内膜タンパク質エメリンを欠損したマウスは横紋筋障害を引き起こさず、患者さんから見出されたA型ラミン変異を導入したH222Pマウスは拡張型心筋症が起こるものの、骨格筋障害は軽微であることが分かっていました。そこで我々は、エメリン欠損とA型ラミン変異をもつ2重変異マウス(EH)を作製し、EHマウスが患者病態と類似して心筋症よりも早期に骨格筋障害が起こることを報告しました。今回の研究では、EHマウスの心筋障害がH222Pマウスよりも重篤化すると仮説をたて、EDMDモデルマウスの心筋の機能と障害度合いを経時的に検討しました。その結果、EHマウスの心筋障害はH222Pマウスと同程度であり、寿命も変わらないことが明らかとなりました。A型ラミン変異にエメリン欠損が加わることで骨格筋障害は悪化するものの、心筋症の進行には影響をもたらさないことが分かり、エメリンの機能は骨格筋と心筋で異なることが示唆されました。これらの結果をもとに、核膜タンパク質の異常が組織特異的に障害をきたすメカニズムを解明していきます。
▶α-1,6-Fucosyltransferase Is Essential for Myogenesis in Zebrafish
Nozomi Hayashiji*, Genri Kawahara*, Xing Xu, Tomohiko Fukuda, Aurelien Kerever, Jianguo Gu, Yukiko K. Hayashi#, Eri Arikawa-Hirasawa#
*: equally contributed、#:責任著者
Cells 2023, 12(1), 144)
タンパク質は糖鎖修飾を受けることにより、多様な機能を獲得し様々な生命活動に深く関与します。糖鎖修飾については未解明なことも多く、糖鎖研究は新たな疾患の病態解明や、治療法の開発への可能性を秘めており大変注目されています。 本研究では、ゼブラフィッシュと呼ばれる小型魚類を用いて、糖転移酵素のひとつであるα(1,6)-Fucosyltransferase:Fut8が筋発生に重要な因子であることを明らかにし、株化骨格筋細胞を用いて筋分化においてもFut8が重要な分子であることを示しました。本研究成果は、骨格筋の形成にタンパク質の糖鎖修飾が重要な役割を担っているという新たな知見を得ただけでなく、骨格筋関連疾患の治療開発に新しい展開をもたらすことが期待されます。
▶Metabolic dysregulation and decreased capillarization in skeletal muscles of male adolescent offspring rats exposed to gestational intermittent hypoxia.
Wirongrong Wongkitikamjorn, Eiji Wada, Jun Hosomichi, Hideyuki Maeda, Sirichom Satrawaha, Haixin Hong, Ken-ichi Yoshida, Takashi Ono and Yukiko K. Hayashi
Front Physiol. 2023 Jan 12 doi.org/10.3389/fphys.2023.1067683
妊娠時には閉塞性睡眠時無呼吸症が好発し、母体の低酸素状態が胎児に与える影響が懸念されています。このように胎児期から出生後の発達期における様々な環境への曝露が、成長後の健康や病気の発症リスクに影響を及ぼすというDevelopmental Origins of Health and Disease (DOHaD)説は、生物学全体の新たな研究課題として着目されています。本研究では、妊娠時の間欠的低酸素曝露が仔ラットの成長期に有酸素運動能の低下と骨格筋での糖・脂質代謝異常、血管密度の減少を引き起こすことを明らかにしました。胎児期に低酸素曝露を経験した仔ラットは大人になってから肥満や糖尿病を発症するリスクが高いことが報告されており、本研究結果が示す成長期の骨格筋での変化が生活習慣病発症の「鍵」となる可能性を示唆しました。
▶Gestational Intermittent Hypoxia Induces Mitochondrial Impairment in the Geniohyoid Muscle of Offspring Rats.
Wirongrong Wongkitikamjorn, Jun Hosomichi, Eiji Wada, Hideyuki Maeda, Sirichom Satrawaha, Haixin Hong, Yukiko K. Hayashi, Ken-ichi Yoshida, Takashi Ono
Cureus. 2022 May 17;14(5):e25088. doi: 10.7759/cureus.25088. eCollection 2022 May.
妊娠時には閉塞性睡眠時無呼吸が好発することが報告されており、母体の低酸素状態が胎児に与える影響が懸念されています。我々はChulalongkorn大学(タイ王国)と東京医科歯科大学のグループと共同研究を行い、妊娠ラットを間欠的低酸素(IH)曝露下で飼育し、通常酸素下で成長期(生後5週齢)まで飼育した仔ラットの骨格筋を解析しました。その結果、舌骨や下顎骨の動きに関与するオトガイ舌骨筋ではType 2A線維が小径化しており、ミトコンドリア関連タンパク質の減少を認めました。一方で、咀嚼筋である咬筋にはこのような変化は認められませんでした。詳細なメカニズムは未だ明らかとなっていませんが、妊娠時低酸素曝露に対する感受性は骨格筋部位によって異なることが明らかとなりました。
▶Homozygous nonsense variant in LRIF1 associated with facioscapulohumeral muscular dystrophy.
Hamanaka K, Šikrová D, Mitsuhashi S, Masuda H, Sekiguchi Y, Sugiyama A, Shibuya K, Lemmers RJLF, Goossens R, Ogawa M, Nagao K, Obuse C, Noguchi S, Hayashi YK, Kuwabara S, Balog J, Nishino I, van der Maarel SM
Neurology. 2020 Jun;94:e2441–e2447. DOI:10.1212/WNL.0000000000009617.
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーは、Ch.4q35領域にあるD4Z4リピート配列の短縮またはエピゲノム変化によって、骨格筋で通常発現しないDUX4が発現することが原因となる疾患です。今回我々は、FSHD患者から新たにLRIF1変異を見出しました。正常ではD4Z4リピートに結合しているLRIF1が遺伝子変異により欠損し、骨格筋でのDUX4を発現させていることから、LRIF1が新規FSHDの原因遺伝子であることを明らかにしました。
*この論文はNeurology ‘Editorial'でも紹介されています(DOI:10.1212/WNL.0000000000009580)。
▶Promoting plasma membrane repair via AMPK comple activation improves muscle phenotypes of dysferlinopathy.
Ono H, Suzuki N, Kanno S, Kawahara G, Izumi R, Takahashi T, Kitajima Y, Osana S, Akiyama T, Ikeda K, Shijo T, Mitsuzawa S, Warita H, Nagatomi R, Araki N, Yasui A, Hayashi YK, Miyake K, Aoki M
Mol Ther. 2020 Apr ;28(4):1133–1153. DOI: 10.1016/j.ymthe.2020.02.006.
筋ジストロフィーの原因遺伝子産物dysferlinは細胞膜の修復に重要な分子です。我々はdysferlinがAMPKγ1と結合し、Ca2+存在下で膜損傷部位へのAMPK複合体の集積に関与すること、AMPKαのリン酸化が膜修復に必須であること、AMPK活性化分子メトフォルミンがゼブラフィッシュ並びにマウスdysferlin欠損症の膜修復を改善することを明らかにし、筋ジストロフィーの新たな治療候補を見出しました。
▶Antagonists for serotonin receptors ameliorate rhabdomyolysis induced by 25D-NBOMe, a psychoactive designer drug.
Kawahara G, Nakayashiki MS, Maeda H, Kikura-Hanajiri R, Yoshida K, Hayashi YK
Forensic Toxicology. 2020 Jan;38:122–128. DOI: 10.1007/s11419-019-00495-w.
危険ドラッグの成分である25D-NBOMeは服用後セロトニン症候群、横紋筋融解症などを引き起こすことが知られています。この25D-NBOMeをゼブラフィッシュの稚魚に投与した結果、セロトニン受容体およびリアノジン受容体の発現亢進を伴って、筋組織構造異常を引き起こすことが明らかになりました。その症状はセロトニン受容体阻害剤の投与によって緩和されました。今回の論文では、危険ドラッグの成分である25D-NBOMeで引き起こされる横紋筋融解症の動物モデルを確立し、その緩和薬剤としてセロトニン受容体阻害剤が有効である可能性が示されました。
▶Deficiency of emerin contributes differently to the pathogenesis of skeletal and cardiac muscles in LmnaH222P/H222Pmutant mice.
Wada E, Kato M, Yamashita K, Kokuba H, Liang WC, Bonne G, Hayashi YK
Plos One. 2019 Aug;14(8):e0221512. DOI: 10.1371/journal.pone.0221512.
核の構造や機能を担う核膜タンパク質は様々な種類が知られていますが、その中でもエメリンやA型ラミンの変異は核膜病の原因として知られ、心筋と骨格筋に障害を呈します。モデルマウスを用いた先行研究では、エメリン欠損マウスはほとんど症状がなく、患者さんから見出されたラミン変異p.His222Proを導入したH222Pマウスは心筋障害を呈するものの骨格筋病態は非常に軽微でした。本研究では、エメリン欠損マウスとH222Pマウスを掛け合わせて二重変異マウス(EH)を作出し、骨格筋と心筋に対する影響を検討しました。その結果、EHマウスは心筋障害を起こしていない12週齢で、すでに運動機能の低下と骨格筋の変性が認められました。患者さんでも同様に心筋よりも骨格筋のほうが先に障害が認められることと一致します。EHマウスは核膜病、とりわけ骨格筋病態を研究する上で大変有用なモデルマウスであることが明らかとなりました。また、エメリンの機能が心筋と骨格筋で異なることが示唆されました。引き続き、核膜病モデルマウスを用いて病態解明と治療法の開発を進めていきます。
▶Renal involvement in the pathogenesis of mineral and bone disorder in dystrophin-deficient mdx mouse.
Wada E, Hamano T, Matsui I, Yoshida M, Hayashi YK, Matsuda R
J Physiol Sci. 2019 Jul;69(4):661-671. DOI: 10.1007/s12576-019-00683-8.
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)のモデルマウス(mdx)を用いて、腎機能低下と骨代謝へ与える影響を明らかにしました。骨密度低下や腎機能低下はDMD患者さんの合併症としても知られていますが、今回の研究でmdxマウスの腎機能低下は腎臓の構造的問題ではなく(ジストロフィンタンパク質の欠損や関連タンパク質の局在異常等は関与していない)、慢性的な筋変性が起因することが示唆されました。また食餌から摂取するリンの量を増加させて腎臓に負荷をかけると、mdxマウスの骨密度低下がさらに悪化することも分かりました。